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「コーチング」を社会の共通言語に〜ICFジャパン〜

こんにちは!Smart相談室CEOの藤田です。
この記事は連載企画「『コーチングとはなにか?』ICF認定スクールに聞いてみた」の一環として、ICFジャパンの理事をされている袖川さんにお時間をいただいて、ICFジャパンがコーチング文化にどのような影響を与え、どのようにコーチング文化を育んでいこうとされているのかをお聞きします。聞き手は、藤田と広報担当のみやっちゃんです。
(8000字近い超大作となりました!お時間あるときにお読みいただけますと幸いです。)


ICFジャパンについて:外国人コーチのサポートからスタートした?

(藤田)今日はお時間いただきありがとうございます!よろしくお願いします。まずはICFジャパンの始まりを教えてください。

(袖川さん)2008年、主に日本在住の外国人コーチをサポートする任意団体として誕生したのがICF「ジャパン」の始まりです。その後2013年に、世界標準のコーチングを日本に普及させるために、非営利型一般社団法人国際コーチ連盟日本支部(後に国際コーチング連盟日本支部)として生まれ変わり、現在に至ります。

 ICFジャパンは、日本では唯一のICF公式認定支部として、グローバルな視点を持ち続け、プロコーチに対してICFが発信する有益な情報の日本語での提供、プロコーチが垣根なく参加できるネットワーク作り、コーチング業界外へのコーチング認知拡大の活動など、ビジネスとしてコーチングを行う方々のための支援活動を行っています。ICFジャパンと同様に各国でICFの認定支部があり、それぞれに活動しています。

 ICFジャパンは、「コーチングを社会の共通言語に。」を理念に掲げて、日本のコーチング業界のプレゼンスを高め、存在価値を高めていくために世界に発信する活動を行っています。

(藤田)袖川さんは、理事なんですよね?

(袖川さん)はい、私は理事としてICFジャパンの経営に携わっています。理事が3名いて、代表理事が1名で他2人、理事が僕含めて2名いるという形で、それぞれ役割を持って、それぞれ執行に当たっています。また、実際の運営は、プロジェクト毎に運営委員の皆さまが回してくださっている、という組織体制です。

コーチングが社会の変革に不可欠な世界を目指す

https://coachingfederation.org/strategic-plan

(藤田)ICFは、元々はアメリカで生まれたんですか?

(袖川さん)そうです。もともとICFがアメリカで誕生した時は、協会みたいな位置づけだったんですよね。まず初めに「コーチング」と言う手法が世間に出回り、さまざまな様式のものが「コーチング」と言われ始めた一方、国際的な標準規格がなかった。そうすると、「質の高いコーチング」や「そのコーチング教育を保障する」ためのガイドラインが必要になってきて、その役目を果たすべくして生まれたのがICFです。同時に、コーチングの社会的認知度や信頼性を高めることも役目としていました。

 今では、グローバルで、「コーチングが社会の変革に不可欠な世界を目指す」というVisionを掲げています。

Vision: A world where coaching is integral to transforming societies.

https://coachingfederation.org/strategic-plan

なので、「社会を変革するには、コーチングが不可欠だよね」って言われるような世界を実現できれば嬉しいです。そのためにコーチングの多形性と影響力、そしてその価値を世界中に広めていくことがミッションになります。

Mission:  We advance coaching excellence, impact, and value worldwide.

https://coachingfederation.org/strategic-plan

コーチングの影響範囲に制限はない

(藤田)「コーチング」って個人的な行為のイメージがあり、会社のような営利組織内で活用されるイメージもあり、家庭とかプライベートな場面でも活用されるかも?って思うんですが、具体的にどのような場面で変革に不可欠になるとお考えですか?

(袖川さん)場面は特定されていなくて、受け手の解釈に任されています。ですが、前提としてコーチングは生活を豊かにするものなので、活用する人、影響を及ぼす範囲・場面は限定されず、どんな時にでも活用できると思います。

 今のご質問をいただく意図を汲んで、個人的な考えとして、コーチングのこれまでの歴史的な背景をお伝えしますね。
コーチング自体はもともとアメリカで生まれたんですが、その当時はエグゼクティブが利用して自分が変革し、その結果自分の掌握する組織に影響を及ぼすものでした。その後、エグゼクティブ以外の方も利用し始めたり、エグゼクティブが自分の掌握する組織以外の社会活動範囲でも影響を与え始めた。結果的に、影響範囲に境目がなくなった、という状況です。

(藤田)Smart相談室って仕事からプライベートまで、いろんな相談が入るんです。その相談内容に対して、コーチングを活用して、思考を紐解いていきます。今では相談全体の30%以上がコーチングを活用されています。やっぱり、コーチングは扱うテーマを限定しないんだなぁと今のお話で確認できました。

コーチングスクールを認定する3つの目的

(藤田)ICFでは、コーチングの教育機関の認定を行われていますよね?

(袖川さん)はい、「教育プロバイダー」と言うんですが、2024年時点で全世界で2000以上あります。日本だと現状19ですね。教育プロバイダーを認定する目的はこの3つです。

1️⃣ICFの定める「倫理規定」、「コンピテンシー」に基づいた質の高いコーチング教育を保障すること
2️⃣グローバルスタンダードに則ったコーチング技術を普及、促進させること
3️⃣上記の数をどんどん増やしていくことによってコーチングの社会的認知論と信頼性を高めていくこと

(藤田)質問なんですが、2️⃣について、コーチングという個人の内面を照らすような作業を行う場合、グローバルである必要はないのかな?と思うんですが・・・。

(袖川さん)笑。良い質問ですね。率直で藤田さんらしい。
この点ですが、ICFでも調査を行なっていて、コーチングから得られる個人の変化、効果、影響に関して、国籍や文化的な背景による差はないんですね。いわゆる、統計的に有意な差はないと考えていただいて構いません。これは、国を跨いで活躍されているコーチの方々にお話を聞いても、やはり、その効果について、大きな差はないとおっしゃられます。

(藤田)なるほど。「グローバルスタンダード」に則ったというのは、ICF認定のコーチングであれば「グローバルに通用するよ」ということなんでしょうね。

(袖川さん)そうですね。国や文化的な背景で差はないという部分で言うと、最近の世界的な傾向として、コーチングスキルを単純なコーチングのみで提供するのではなく、何らかの専門性との掛け合わせで提供する流れが見られます。「コーチング×⚪︎⚪︎⚪︎」と言うような形です。例えば、コーチングとキャリア支援、コーチングとスポーツなどです。そう考えると、やっぱりコーチングは世界的に共通したものなのだと思います。

日本におけるコーチングカルチャーの醸成

(藤田)なるほど。すごく腹落ちします。一方で、意地悪な見方をすると、特に日本では、コーチングのことを知っていて興味がある、意識が高い人だけが受けていて、その結果グローバルで見ても違いがない、という可能性もあるのかな?と思いました。いかがでしょうか?

(袖川さん)そうですね、数値的な裏付けがない前提で、個人の意見として発言させてもらうと、個人の対人支援サービス一般を活用することに対するリテラシーの問題はあると思います。例えば、私がちょっとモヤモヤした時に、「カウンセリングやコーチングを活用した」と友人に言うと、驚かれることがあります。本当に悩んでいる人が使うものでしょ?みたいに考える方が多いんですよね。

一方で、責任感強く物事に向かっている方が、悩んでストレスに押し潰されそうになっているのに、カウンセリングにもコーチングにもアクセスできずに調子が悪くなってしまったりしている。頑張っている方の中で、カウンセリングやコーチングが選択肢として上がってこない。適切なタイミングで、適切な対人支援サービスを自ら選択できる、周りが薦めることができる、こういったリテラシーがまだ芽生えていないんじゃないかなと思います。

「問い」に対して「考える体力」を養う必要がある

(藤田)おっしゃる通りですね。カウンセリングやコーチングが身近になって、みんなが生き生きと過ごしてほしいですね。
でもそれで言うと、何らかのきっかけでコーチングを体験した人達ってかなり高い確率で、「コーチングっていいね!」って言ってくれますよね。個人的には、なぜこれまでコーチングを受ける機会がなかったのかな?って思うんですよ。知らないだけなのか、食わず嫌いなのか。幼い頃に経験していれば、人生違ったのかな?とか・・・。私自身、子どもの頃に「コーチ」と言われたら野球や水泳などスポーツのコーチをイメージしてましたからね。

(袖川さん)教育の過程で若い方にコーチングを提供していくことは、私も大きな関心があります。プロボノで、高校生の方にコーチングを提供させてもらう機会があるんです。その中で感じたのが、コーチングが機能する方と機能しない方が、明確に分かれるんですね。機能しない方の国籍や文化的背景に違いがあるのではなく、どちらかというと、「問い」に対して「考える体力」が不足しているような感覚です。

コーチングって、普段自分では考えない内容も質問として飛んでくるんですね。例えば「日々のどういうところに充実感を感じますか?」とか。そういう質問をされた時に、「え、わかんない!そんなの知らない!」みたいな感じで、考えることを放棄しちゃう方もいるんです。考えることに我慢できないというか、価値がわからないみたいな感じですね。そういう場面を経験すると、画一的なコーチングでアプローチするのではなく、試行錯誤しながら、新しいアプローチをする必要があるのかなと思います。

職場のコーチングを「言葉の暴力」にしないために

(宮田さん)私は、コーチングの手法がもっと職場で導入されればいいのになって思うんですが、そのことについて何かお考えがありますか?

(袖川さん)コーチングはあくまでも個人的な手段であって、目的ではないんですね。なので、まず、職場で導入する際の目的を明確にした方が良いですね。何のためにやるのか。うまく活用すると離職率は下がるでしょうし、社員の生産性も上がるでしょう。

 一方で、特に危惧しなきゃいけないのが利害関係なんですね。職場は多かれ少なかれ利害関係がある。上司部下だと明確ですよね。その前提を意識してコーチングを活用することが大切です。いくら「部下の本音を引き出したい」「部下の話をちゃんと聞きたい」という想いがあっても、アプローチによっては、部下からすると「怖い」と感じますよね。そこをちゃんと認識した上でコーチングを使っていかないと、ただの「言葉の暴力」になってしまう。

 そのうえで、企業の中でコーチングを浸透させていく一つの方法は、社内にコーチを置くことですね。社内でコーチング資格を持っている人にお願いするか、社外のコーチを雇うかの検討は必要だと思います。どちらも一長一短あるので、各企業様の状況を加味して検討してみてほしいです。

 最近私が、聞いた事例をお伝えしますね。
ある企業がコーチングを導入することになった時に、人事部門はキャリア開発のためにコーチングを導入したがっていたのですが、なかなか経営層がOK出してくれなかったそうです。そもそも経営層がコーチングを知らなかった。

コーチングの良さが分からないのに話は前に進みませんから、役員全員にコーチングを受けてもらったそうなんです。そうすると、役員陣はコーチングの良さを確認し、ご自身のキャリアパスも含めてキャリア開発の意味合いも理解されたそうなんです。
そんな形で一つ一つ施策を進めることで、企業にコーチングが正しい形で導入されるといいなぁと考えています。

認定コーチングスクールへの定期的なスクリーニング

(藤田)コーチングスクールの話題から、コーチング自体の話題にまで広がりました。とても有意義なお話でした。話を元に戻すんですが、3つの目的を持って、コーチングスクールを認定されていると思います。これは、認定後にチェックされているんでしょうか?

(袖川さん)そうですね。当然チェックはしているんですが、そもそも認定スクールになるためのハードルがかなり高いんですね。条件が複数あって、その条件が定量的に設定されていてハードルが高いんです。

*詳しくは下記WEBページを確認してください

(藤田)そうですね、これだけの内容を組織として実行するプログラムを作るのは大変ですね・・・。

(袖川さん)その上で、プログラム内容を定期的に、活動報告の形でICFが回収してチェックしています。些細な点も含めて、必要に応じて内容の確認をさせてもらう。処分としては認定の取り消しもあります。なので、悪いことはできないですね(笑)

(藤田)よく理解できました。各スクールさんを見てみると、ICFの認定基準を満たしつつ個性を持ってコーチングを広めようとしているのがよくわかります。このバランスが、コーチングの質を一定に保っているんだなぁと実感できます。

スクール独自資格とICF認定資格「ACC、PCC、MCC」について

(藤田)スクールの認定のみではなく、コーチ個人に対して、ACC、PCC、MCCの認定を出してますよね。スクールを認定して、個人も認定している。このあたりの関係性を教えてください。

(袖川さん)スクールの認定もコーチ個人の認定も、ICFのビジョン実現、ミッション遂行のために行っています。
しかしおそらく、コーチングスクールの独自資格もあるし、ICF認定の資格もあるので、何が何だかわからないという方もいるのだと思います。

先ほどお話ししたICFの成り立ち上、先にスクールができていて、「コーチング」の共有認識を作るために、後からできたのがICFです。なので、全体的なシステムとして、スクール独自の資格とICF認定の資格がうまく共存しているのが現状です。仮に、ICF基準に統一する流れになるのでれば、今は過渡期ということでしょうね。
でも、ICFはスクールも応援しているんですね。スクールごとの個性や歴史もありますから。

 ただ、スクールもICFもそれぞれ資格認定の意味合いや条件についての説明責任はあると思います。「この資格はこういうものですよ」「こちらの資格を取ればACC相当ですよ」「ACCの認定基準は、申請方法はこのような流れですよ」という具合ですね。
あとは、実体的な話をするとICFの認定はグローバルで展開している基準なので、ACC、PCC、MCCは、日本以外の国の方でも理解してもらえる資格ではあると思います。

健全なコーチングカルチャーの成長に寄与したい

(藤田)今後のコーチングカルチャーに関して展望を教えてください。

(袖川さん)ICFジャパンとしては、倫理規定とコアコンピテンシーを普及させていきたいです。コーチングと名前のつくものがすごく増えています。
これは、コーチングなのかな?みたいなものもあります。そうするとコーチングに初めて触れる人から「コーチングってなんですか?」みたいな声も聞こえてくる。

コーチングではないものは、それはそれで良いものですので、否定する意味ではないですが、ICFが考えるコーチングを国際的な標準のコーチング資格として広め、質の高いコーチ達と提供していきたいです。そのことが、健全なコーチングカルチャーの成長にもつながっていくと捉えています。

(藤田)個人的には、何かありますか?

(袖川さん)今コーチングスクールがどんどん増えてきていて、コーチと名乗る人も圧倒的に増えてきています。その状況の中で、私は「組織に対するコーチング」が今後必要とされてくると考えています。

組織って個人の集まりですよね。なので、組織が成長していく過程において、どうしてもマネージャーや経営層とのコミュニケーションに問題が発生すると思うんです。例えば、トップダウン型だけでは成長できないような状況だったり、現場の想いをマネージャーや経営層が理解できなかったり。

コミュニケーションは、それぞれの立場における内発的動機付けから端を発すると思うので、そこに対してコーチングが役に立てないかなぁと感じています。仮に役に立てる機会があれば、偽物のコーチングではなく、国際的な標準のコーチングが必要とされる時代になってほしいです。

インタビュイー紹介

ICFジャパン理事 袖川航平さん

袖川 航平(そでがわ・こうへい)
ICFジャパン理事 

1994年生まれ。新卒でアクセンチュア株式会社に入社し、主にテクノロジーコンサルティングに従事。日本大手銀行、及び保険会社のDXプロジェクトでの経験を積み、ベンチャーへ転職。組織コンサルティングとIT系ベンチャー・スタートアップに特化した人材紹介のマネジメントを経験し、コーチとして独立。現在は主に組織のマネジメント層に対するコーチングと、パーソナルコーチングの提供を通じて「論理と感性の調和」が出来る人を増やせるよう尽力している。
学生時代からコーチングをやり始めた私にとって、今後の日本のコーチング業界において注意しなければならない問題の一つに「若手コーチをどれだけ増やせるか」というのが挙げられると考えます。幅広い世代のコーチがICFのスタンダードに則ったコーチングを提供出来るようになることで、今よりももっと良い日本を創っていけると信じています。

ICFジャパンについて

 ICFジャパンは、国際コーチング連盟(ICF)から公認された日本唯一の支部です。ICFの倫理規定とコア・コンピテンシーに基づいたコーチングの普及と深化を目指し、コーチングの社会的認知度向上に取り組んでいます。グローバルスタンダードの認定資格を通じて、高品質なコーチングの実践を推進。会員向けのサポートや、年次イベント「コンバージ」の開催など、コーチング業界の発展に貢献しています。「コーチングが社会を変える」という信念のもと、日本におけるコーチング文化の醸成に尽力しています。

*「『コーチングとはなにか?』ICF認定スクールに聞いてみた」記事一覧はこちら


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