「時間芸術」としての「ウェルビーイングコーチング」を広めたい 〜ラッセル ウェルビーイング コーチング カレッジ〜
こんにちは!Smart相談室CEOの藤田です。
この記事は連載企画「『コーチングとはなにか?』ICF認定スクールに聞いてみた」の一環として、ラッセル ウェルビーイング コーチング カレッジ代表の中原 阿里さんにインタビュー取材させていただいた内容をまとめたものです。8000字を超える大作となりました!ぜひお時間のある際にご一読ください。
ウェルビーイングを目指して弁護士に。その後、ウェルビーイングにもう一度正面から向き合う
(藤田)今日はよろしくお願いします!まず、中原さんの自己紹介をお願いします。
(中原さん)こんにちは、中原阿里です。ラッセル ウェルビーイング コーチング カレッジの代表をしております。また、2009年に弁護士登録をして、現在も弁護士活動や企業の社外役員ウェルビーイングのための講演なども行っています。
(藤田)さまざまなご経歴があるとのことですね。
(中原さん)はい。小さい時は内気な性格で、自己肯定感も低い子どもだったと思います。そして、物心ついたころから、世界中の人が幸せになれば自分も幸せになれるのではないかとなぜか思いこみ、毎晩布団で「世界中の人が幸せになりますように」と手を合わせるのが日課になりました。5歳くらいから大学進学で実家を出るまで、10年以上続けたのではないでしょうか。
でも、家を出て大学に進むと、こうした感覚をすっかり忘れてしまいました。大学は英文科で、正直全く真面目ではなかったです。卒業後は広告代理店マーケティング室や社長秘書など、どちらかというと華やかな世界、社会の表側を見ていました。
その後は、縁あって犯罪被害者や外国人の支援ボランティアに携わり、また大学病院の医事課や、文化人類学の研究所で働く機会を経て、どちらかというと社会の影の部分を見ます。そういう体験の中で、恥ずかしながら、社会には生きることに苦難を抱える人が驚くほどたくさんいるという事実、また社会とはそうした大変な状況を互いに支え合う巨大なシステムだということに、初めて気がつきました。
私たちは、意識せずとも、医療保険制度や教育制度、法律と経済システムの中にいます。病院で治療を受けられるのは、社会制度が整っているからでもあります。また、大学病院のような大きな病院では、毎日たくさんの方が亡くなり、どんな患者さんにとっても、病は仕事や社会制度、時にはご家族との複雑な関係の影響があるんですよね。
さまざまな生死と生きる困難を目の当たりにして、遅ればせながら、この社会システムの中で、責任をもって他者の役に立てる「力」が私自身にも必要なのではないかと考えました。30代半ばで急に社会的責任に目覚めた感じです。そして、同時に思い起こした感覚があります。それは、「世界中の人が幸せになってほしい」という、すっかり忘れていた願いでした。
そのころ、ちょうど仕事の任期が切れて、人生に迷ったときでもありました。そこで目にしたのが、法学部でなくても司法試験の道が開かれた、ロースクール制度発足のニュースです。これを見たとき、法律家になれば、社会的に苦しい人たちの幸せに貢献できるんじゃないかとひらめいた感じがして、そのままロースクールに突入するように進学して、36歳からの学生生活3年は、平均睡眠時間は3時間で頑張って司法試験に合格しました。
弁護士としてさまざまな人たちと出会い、世の中には本当にいろんな状態の人がいるのだと、これまた社会のリアリティに直面しました。平穏に暮らしていながら突然犯罪の被害者になり、時には加害者にもなってしまう。壮絶な形で家族を失ったり、仕事や財産や平穏な生活を何らかの形で失った人と弁護士は向き合って、支援を行うわけです。
そこで知ったのは、弁護士の仕事は法的な知識や支援だけでは足りないということです。というのは、法的に完全に勝ったとしても、心が晴れず、相手をもっと痛めつけたい、などと思ってしまう人もいます。事件が法的に解決しても、ずっと心のしこりが残っていては、幸せとは言えない気がするのです。
このことを、一言でいうならば「法的な勝ち負けと幸福度は相関しない」、「しあわせとは心のあり方である」、ということです。事件そのものより、事件を経た人生を自分自身がどうやって生きるか、それを大切にして向き合うことがはるかに重要なんだと、教えられた時間でした。
私の好きな言葉に、
というものがあります。
いま目の前に何が見えていようが、その先人は常に幸せな状態、つまりウェルビーイングを求めていると、古代からアリストテレスが語っていたのです。何とも言えない人の普遍性のようなものを感じ、すこぶる感銘を受けました。そして私も、一人ひとりのウェルビーイングのために何ができるのか、もう一度心の面から向き合おうと思ったのです。大げさに言うなら、しあわせとは、ウェルビーイングとはいったい何なのか、探求の旅に出たという感じです。
ウェルビーイングの扉の鍵はどこにあるか
(藤田)弁護士としての活動を続ける中でコーチングスクールの開設の想いが生まれたんですね。
(中原さん)そうです。また私自身が、弁護士生活10年の激務中に6回入院し、心身ボロボロになってしまって、労働と幸せについて悩んでいたことも関連します。
(藤田)クライアントさんを思う気持ちと弁護活動の負担のバランスが崩れてしまうほど、クライアントさんに向き合われてたんですね。
(中原さん)そうですね。正直、自己犠牲っぽいところがありました。ですが、「しあわせ・ウェルビーイング」にしっかりと向き合うには必要な過程だったのかもしれません。そこで、仕事以外のすべての時間を突っ込んで、臨床心理学、発達心理学、行動経済学、マインドフルネスとコンパッション、レジリエンス、交流分析、Gallup社ストレングス、NLPなどを学びました。
また、個人でなく経営や組織の視点からも「心」と「ウェルビーイング」を理解したくて、経営学や組織論もMBAで受講しました。心理の学びは際限がなく、良い意味で沼っぽい側面がありますよね。もしかすると司法試験の時より勉強したかもしれません。
(藤田)新しい学びが始まったんですね。
(中原さん)はい、そこで出会ったのが「コーチング」です。人の無限の可能性を信じ、その人だけの答えを引き出していくメソッドは、ウェルビーイングにつながる大きな扉になると思いました。そして、2018年に国際コーチング連盟(以下、ICF)認定コーチの資格を取得し、エグゼクティブコーチとして主に経営者とセッションを行いながら、この「ラッセル ウェルビーイング コーチング カレッジ」を開きました。テーマは「ウェルビーイングをつなぐ」です。
質の高いコーチングで、クライアントさんのウェルビーイングを実現したい
(藤田)スクール設立に関して、当時の想いを教えてください。
(中原さん)コーチングができる人、コーチング的な関わりができる人が増えると社会の豊かさにつながる。コーチングは、社会を支えるコミュニケーションのインフラになるという確信がありました。その結果、自分でコーチとして活動しながら、コーチの育成にも力を入れる形をとったんです。
また、コーチングには医師や弁護士のように国家資格制度がなく、誰でも名乗れる中で、質の高いコーチングをいかに担保していくかも考えました。コーチングは、対人支援のスキルとしてすごく有益なんですが、他人を動かしたり、思い通りに変えようとする手段として使われるなら、それは本質からズレてくると思います。「指示的、指導的な関わりではなく、人の幸せのための変化や成長に役立つこと」が大事です。
もちろん指示や指導も大切ですが、それだけでは人の成長は頭打ちですし、人が持っている力を引き出す技術は、現実に具体的なメソッドとして存在しています。それがコーチングです。
人が、互いに相手の可能性を最大限に引き出しあう関係をどこでも作れたら最高なんじゃないでしょうか。職場でも家庭でも学校でも、地域でもです。
周りを見ても、自分の力や思いを全て出し切っている人って、思いのほか少ないと思います。自信がない、他者から承認を受けた経験が少ない、失敗を恐れる、いろんな理由で自分自身を発揮できない人はものすごく多い気がします。
ということは、人が持っている力を最大限に発揮するだけで、すごいことが起きると思うんです。それは、人が自分らしくありながら、互いに幸せを引き出しあう、まさにウェルビーイングな状態です。コーチングにはそんな可能性が十分にありますし、その支援ができることは、ウェルビーイングを社会に増やしていく活動でもあると思っています。そんな思いもあって、今当カレッジは、ICFが認定する日本で唯一のウェルビーイングを冠するコーチングプログラムなんです。
「ウェルビーイングをつなぐコーチング」を広めたい
(藤田)ラッセル ウェルビーイング コーチング カレッジさんのコーチングの定義を教えてください。
(中原さん)当カレッジはICF認定スクールなので、コーチングの定義は、ICFの定義をそのまま採用しています。つまり、「クライアントの思考を刺激する創造的なプロセスを通じて、クライアントの公私における可能性を最大化するコミュニケーション」メソッドであるということです。
可能性の最大化は、その人のウェルビーイングでもあり、また互いにそれを発揮することで、社会のウェルビーイングも向上すると考えています。どのスクールさんも、ICFの倫理規定とコア・コンピテンシーにのっとりつつ、それぞれの価値観にもとづき、意義深いコーチングのプログラムを提供していますよね。
その中で、当カレッジでは「ウェルビーイングをつなぐコーチング」を広めたい、と強く思っています。さまざまな人たちが共に「ウェルビーイング」のためのコーチングを学べる場を作り、ウェルビーイングを旗印に集まった人たちが、学びを通して幸福度を高めていければ素晴らしいなと純粋に思います。ウェルビーイングとコーチングは密接な関係にあり、コーチングがウェルビーイングを向上させる有効な手段であることは、研究でも知られた事実ですしね。
ちなみに、コーチングは組織のウェルビーイングにも有効です。コーチングを会社で実践することで、互いの可能性や能力を引き出しあえるので、個人と組織のウェルビーイングに大きな支援ができます。海外では、MBAでもコーチングを学びますし、もはやビジネス上も必須のスキルと言えると思います。
(藤田)コーチングとウェルビーイングの関係性は理解できました。その上で「ウェルビーイングコーチング」とはどのようなものなのでしょうか?
(中原さん)ウェルビーイングコーチングとは、誰しもが持つ、幸せな状態を支援するコーチングのかかわりのことです。定義でいえば、
というのが最もしっくりくると思います。どんな状態でも、どんな人でも、幸せであることは何よりも大事です。
また、何かのために頑張っているとき、それが自分や大切な人の幸せにつながっているからこそ、その努力に光が見出せるはずです。でも人には、必死で頑張っていながら、それが自分の幸せにつながっていないときもあると思うんです。そして、いろんな葛藤や迷いが生まれます。
そして、幸せの定義は人によって違いますよね。自分にとって幸せとはどういうものなのか、良い状態=ウェルビーイングとはどんな状態なのか、これは自分にしかわかりません。どこかに絶対的な答えがあって、誰かにそれを教えてもらう、という手法は使えないのです。そこで、自分にとってのウェルビーイングな状態ってなんだろう?と探索すること、そして、それを実現していくこと。その支援が、まさにウェルビーイングコーチングです。
あらゆる心理領域を横断したアカデミックな学びを提供
(藤田)スクールのカリキュラムの特徴はなんですか?
(中原さん)ICFのコンピテンシーを中心にカリキュラムが設計されています。特徴は、心理学や組織論など、いろんな要素をベースにしており、アカデミックな側面が強いところです。ICFの考えに準拠し、質の高いコーチングのマインドとスキルを習得することは当然ですが、コーチングは同時にいろいろな分野と隣接しています。例えば行動心理やポジティブ心理学、幸福学、行動経済学、発達心理などです。そうした理解は、コーチングを行う際に必ず役に立ちます。
さらには、交流分析、ナラティブアプローチやソリューション・フォーカスト・アプローチなどグローバルに通用し、かつ安全で効果的なアプローチも合わせてお伝えしています。いずれも、コーチングをより効果的に行うことが目的なので、わかりやすさを大事にしています。受講生からは、コーチとしての基盤が増えた、世界観が広がったといったお声をいただきます。
そして、コーチングを学ぶことは人間性を高めることでもあり、これをすごく大事にしています。人という存在を多角的にとらえ、互いを尊重する姿勢も大事ですし、多様な受講生が、例えば哲学の講義をしてくれたり、キャリア論を考える場があったりするのも当スクールの特徴です。私自身も、新しい心理学の研究分野や最新の組織論、経営の主流について伝えたり、また受講生同士のお祝い事をみんなで祝ったり、いろんな形で「ウェルビーイングをつなぐ」というミッションが常に体現されるように意識しています。
この学びの多様さとボリュームが当カレッジの特徴でもあり、こだわりでもあります。
オリジナルのコーチングモデル、GRROOWWモデルを提供
(中原さん)また、コーチングスキルの点で言うと、「GRROOWWモデル」というオリジナルのコーチングモデルもあります。
これは、コーチングの枠組みのようなものです。コーチングをやってみたけれど、うまくいかなかったという経験を持つ人は多いものです。コーチング資格を持つ人もうまくいかないことはありますし、そういった悩みをたくさん聞いてきました。私自身も悩んだことがあります。
そこで、質が高く再現性のあるコーチングを習得するため、コーチングの優れた流れを型でまとめたメソッドを開発しました。これにより、コーチの個性を発揮しながら、安定した質の高いコーチングが提供できます。
時間芸術としてのコーチングを大切に
(藤田)スクールでは、どのようなことを大切にしてコーチングをするように指導されていますか?
(中原さん)二つあります。一つ目は、逆説的ですが「良いコーチング」をしようとしないことです。コーチが良いコーチングをしようとすると、自分に意識が向かってしまうことがあります。例えば「次はどんな質問が良い展開かな?」などと考えすぎてしまったり、展開に迷ったときに、その迷いをクライアントに見せたくないという心理が働いて、ついついコーチが頭で考えた展開に走ってしまったりする状態です。これでは良いコーチングから離れてしまいます。
コーチングは、あくまでクライアントのためにあるわけですが、それはコーチとクライアントが手と手を取り合って、クライアントの変化や気づきの世界を共に探求する共同作業です。その過程では、クライアントの言葉(WHAT)や全体性(WHO)にも向き合うことになります。だからこそ、コーチは「良いコーチング」をやらなければ!という肩肘を張ったあり方を手放し、クライアントに対してありのままの自分を解放して、純粋に向き合うことも大事です。ただし、それには、コーチとしてのスキルやマインドがしっかり身についていることが大前提です。
(藤田)もう一つはいかがでしょうか?
(中原さん)守破離が大事、という点です。コーチングは洗練されたコミュニケーションメソッドで,他のコミュニケーションとは異なる特徴があります。その違いをもたらすのは,一つの型のようなものがあるから。そのコーチングらしいやりとりや,型のようなものは,大事にすべきだと思っています。
その型に対する考えをうまく表現したものが、世阿弥のいう「守破離」です。守破離とは、剣道や茶道など日本の「道」や芸事を学ぶ段階を示したもので「守」は、型や技を忠実に守り、確実に身につける段階です。「破」はさらに良いものを取り入れ心技を発展させる段階。「離」は型から離れて、独自の新しい芸術性を生み、個性を確立させる段階です。この考え方は、コーチングの学びにも大いに通ずると思います。
「守」を獲得するからこそ、「破」「離」を通じてその人らしい素晴らしいコーチングが生まれます。そして、コーチングのセッションは常にライブで、瞬間的に気づきや新しいものが産まれる点で、時間芸術の側面もあります。基礎や型を大事にしながら、クライアントと共に、自由なアートを描くような感覚が両立するときに、素晴らしいコーチングがうまれると思います。
コーチングの導入は、人的資本経営の中心施策
(藤田)企業がコーチングを導入するメリットを教えてください。
(中原さん)コーチングの導入は、人的資本経営の重要な施策だと思います。今「組織は人」という、いわば原点回帰のような流れが起きていますよね。言い換えるとウェルビーイング経営であり、人的資本経営の潮流です。
人材獲得も難しい時代ですが、一番大事なのは、採用した人たちの力をどれだけ発揮してもらえるか。先に言ったように、自分の本来の力を全部出し切っている人は少ない。もしも、組織のメンバーがそれぞれ最大限の力を出し切れるなら、それだけで組織の力は業績も含めて大きくアップするはずです。そんな状態を作るために練り上げられたメソッドがまさにコーチングなので、それを使わないのはもったいないと思います。どんな企業でも人材育成は最大の関心事で、もはや人材戦略は経営マターになりました。私が関わる多くの組織でも、社外コーチや社内コーチ制度を導入して、成果を上げています。
この先、多くの組織にコーチングが広がって、ひとつのインフラになれば、その組織はもちろんその先にいる顧客などバリューチェーン全体が良い状態になっていくはずです。自社だけが良ければいいという時代はもう終焉を迎えています。私は、人権デューディリジェンスにもかかわっていますが、組織に関わる人の幸せを実現すること、これがウェルビーイング経営でもあり、同時にそれは、私がずっと願ってきた世界中の人の幸せにもつながるものです。
あらゆる人と組織のウェルビーイングのため、コーチングが広まることを、心から願っています。
(藤田)とても勉強になりました!ありがとうございました!
インタビュイー紹介
ラッセル ウェルビーイング コーチング カレッジについて
ラッセル ウェルビーイング コーチング カレッジは、心理学に根差したアカデミックなアプローチでウェルビーイングの総合的な学びを深め、ウェルビーイングのためのコーチングを身につけられるスクールです。単なるスキルアップではなく、自分と他者を尊重・信頼し他者を支援することの本質を考えウェルビーイングを目指しています。
*「『コーチングとはなにか?』ICF認定スクールに聞いてみた」記事一覧はこちら
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