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日本総研の小島さんに聞く!男性の育児参画の現状と課題

 こんにちは!Smart相談室の藤田です。
今回は株式会社日本総合研究所で、多様な働き方に関する調査研究をされている小島明子さんに、男性の育児参画の現状と課題についてお話を伺いました。さまざまなデータや調査に基づいて、男性の育休について考えていきます。

小島 明子(こじま あきこ)
株式会社日本総合研究所創発戦略センター スペシャリスト

1976年生まれ。民間金融機関を経て、2001年に株式会社日本総合研究所に入社。多様な働き方に関する調査研究に従事。東京都公益認定等審議会委員。厚生労働省労働者協同組合促進モデル事業企画書等検討・評価委員会委員。主な著書に、『中高年男性の働き方の未来』(金融財政事情研究会)、『女性と定年』(金融財政事情研究会)、『協同労働入門』(共著・経営書院)。


小島さんが語る「男性の育児参画の現状と課題」

1. 育児・介護休業法等の改正

 2024年5月に育児・介護休業法、次世代育成支援対策推進法が改正され、2025年7月から施行されます。
今回の改正の趣旨としては、

男女ともに仕事と育児・介護を両立できるようにするため、子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充、育児休業の取得状況の公表義務の対象拡大や次世代育成支援対策の推進・強化、介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化等の措置を講ずる。

令和6年改正法の概要 より

とされています。

育児休業に関しての具体的な見直しの内容は、

  • 育児休業の取得状況の公表義務の対象を、常時雇用する労働者数が300人超(現行1,000人超)の事業主に拡大すること

  • 次世代育成支援対策推進法に基づく行動計画策定時に、育児休業の取得状況等に係る状況把握・数値目標の設定を事業主に義務付けること

などが定められています。

企業側には、女性はもちろん、男性にとっても育児休業の取りやすい環境の整備がますます求められる時代になっているといえます。

2.男性の育児休業取得の現状

 ここで、男性の育児取得の現状をみてみましょう。

厚生労働省「令和元年度雇用均等基本調査」より引用

厚生労働省「令和元年度雇用均等基本調査」によると、女性の育児休業取得率は、平成8年(49.1%)に比べて、令和5年は84.1%まで上昇しています。ただし、平成20年の90.6%をピークに、やや減少しているのが現状です。

一方、男性の育児休業取得率は、平成8年は0.12%でしたが、令和5年は30.1%まで大幅上昇しています。ただし、女性と比べてしまうと、半数以下の水準ですので、上昇しているとはいえ、決して多いとはいえません。

 また、同調査では、育児休業後に復職した従業員がどのくらいの期間育休を取得したのかについての割合も出ていますが、女性は「12か月~ 18か月未満」(32.7%)が最も多く、男性は「1か月~3か月未満」(28.0%)が最も多くなっています。

男性の育児休業取得率が大幅に上昇し続けているとはいえ、取得期間の差を見ると、男性が育児休業を取得しづらいことや、女性側に育児負担が偏っている現状に課題がある状況が窺えます。

 パーソル総合研究所「男性育休に関する定量調査」(2023年)によれば、男性の育休(*)に関する施策の実施状況において、「取得率5%未満」の企業では、男性育休に関する「全社方針の発信」や「対象者への取得勧奨」の実施率が低いことが明らかになっています。

パーソル総合研究所「男性育休に関する定量調査」より引用

 過去に私が往訪した、男性の育児参画に理解のある企業の特徴として、経営層からの従業員に向けた積極的な発信、管理職への意識啓発、短い日数での育児休暇の取得の推奨、などがあげられます。今後も、男性が育児休業制度を取得しやすい企業側の取組みの強化が求められます。

*パーソル総合研究所「男性育休に関する定量調査」(2023年)では、育児・介護休業法に基づく産前・産後休業や育児休業に加えて、企業独自の特別休暇や有給休暇もあわせて出産前後の実質的な休業・休暇を「育休」として調査した。なお、調査票内では上記の休業・休暇を「産休・育休」の表記で質問しているが、報告書内では一部「育休」と略して記載している。

3.育児と仕事の両立に対する男性の意識

 東京都では、未就学児を持ち、かつ配偶者と同居している男性及び女性4,000 名を対象に、未就学児の子を持つ夫婦等の家事・育児分担に関する実態や男性の家事・育児状況について調査を行っています。

令和5年度の同調査によれば、平日の自身の育児時間は、男性は「1 時間未満」が40.0%、「2 時間未満」が75.5%に対して、女性は「4 時間以上」が64.8%となっており、女性が時間の面では多く担っていることが明らかになっています。

東京都生活文化スポーツ局「令和 5 年度 男性の家事・育児実態調査 報告書」より引用

 自分自身に対する悩みについて、男性は、「特に悩みがない」(33.0%)がもっとも多く、次いで、「家事・育児の時間が取れない」(31.8%)が挙げられています。一方、女性は、「家事・育児を抱え込んでしまう」(34.3%)、「家事・育児を担ってほしいけれど、相手に上手く伝えられない」(31.4%)とコミュニケーションについての回答が上位となっています。

東京都生活文化スポーツ局「令和 5 年度 男性の家事・育児実態調査 報告書」より引用

 また、 配偶者に対する不満について、男性は「特に不満はない」が47.0%で最多ですが、「家事・育児をしても、文句や口出しをされる、やり直しを求められる・やり直される」(23.0%)です。一方、女性は、「自分が言わないと、家事・育児をしてくれない」が37.7%で最も多く、次いで、「家事・育児をやってくれるのが当たり前だと思っている」(30.5%)が続いています。

東京都生活文化スポーツ局「令和 5 年度 男性の家事・育児実態調査 報告書」より引用

 これらのことから、男性に比べて女性は家事・育児の負担を抱え込みがちであり、それを伝えられない、あるいは、伝えなければやってもらえないことへの不満の現状があることが推察されます。

男性が育児休業を取得しやすい環境づくりだけではなく、女性側に育児負担が偏らないよう男性の育児参画を積極的に推進していくことが求められます。

Smart相談室に寄せられる、育休取得に関するお悩み

ここからは藤田がお届けします。

Smart相談室に寄せられる相談の中に「男性社員が育児に関わること」についての相談が寄せられます。これらの相談は、「仕事に関すること」と「プライベートに関すること」、両面の相談項目として寄せられます。

 「仕事に関すること」として寄せられるケースについては、

  • 職場で育児休暇が取りにくい

  • 男性部下が育児休暇を取得したがっているが許可することに抵抗がある(許可するべきだとはわかっている)

というものです。

男性の育児休暇取得率は向上していますが、女性の取得率に比べると低いです。男性の取得率が女性の取得率と同じくらい上がってくれれば良い、と直感的には思いますが、どのくらいまで上がっていくのか、今後の推移を確認したいです。

 「プライベートに関すること」として寄せられるケースは、

  • 「女性から育児休暇は取らなくて良いと言われた」という男性のお悩み

  • 「男性に何をお願いすれば良いかわからない」という女性のお悩み

の2パターンが多いです。

女性から「育児休暇を取らなくて良い」と言われたケースに関しては、「必要な時は休んでほしいけど、毎日休む必要はない」ということが多いようです。

制度は選択して活用するもの。悩んだら相談を

 制度として男性の育児休暇は必要なものであると感じる一方、上記のような相談事例を鑑みると、育児は家族の価値観によってさまざまな形があり、それぞれの事情に合わせて「うまく制度を活用してもらう」のが良いのでしょう。

こうして考えると、社会全体の動きとして、「男性の育休も良いよね」、「夫婦両名で子育てした方が良いよね」という風潮と、夫婦それぞれ個別具体の事情が混じり合っているんだろうなぁと感じます。社会として、会社として、世間の流れをサポートする仕組みの導入は必須ですが、それを利用する「個人」の考え方、気持ちはそれぞれなんでしょうね。それぞれの気持ちに対して、制度を「良いもの」「活用しなければならないもの」として押し付けるのも違うのかもしれないな、と思いました。

 きっとそんな状況で、モヤモヤしたり、自分に納得できなかったりしてくるんじゃないかなぁと思います。世間的に良いものに対する反対意見や、言葉にできないモヤモヤは、なかなか口に出せないもの。でも勇気を持って相談するだけで、かなり楽になります。相談するだけで良い、解決を求めなくても良いんです。一度、誰かに相談してみてくださいね。


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