人事・労務担当者は「キャリアコンサルティング」をどう扱えばよいのか? 〜キャリアコンサルティング協議会さんに聞いてみた!【前編】〜
こんにちは!Smart相談室CEOの藤田です。
みなさん、「3年後は仕事でなにしたい?」とか「今後のキャリアパスってどう考えているの?」とかって上司や人事から質問されたことありませんか?私は立場上、一緒に働くメンバーやカジュアル面談でお話する方に聞きまくっています・・・。
でも、すぐに答えるのって難しいですよね?新卒の就活のときは、ガチガチに自分のやりたいこととか、志望動機とか作り込んでましたが・・・。最近は、個人の考え方が多様になってきて、会社側も個人を尊重する流れになってきているので、余計に個人の意向をしっかりと確認するようになっているんだと思います。
そんな状況のなか、キャリアに関する自分の意志を明確にするために、キャリアコンサルティングを受ける方も、キャリアコンサルタントになる方も増えていますよね。また、会社でセルフ・キャリアドックを導入される企業さまも増えています。
Smart相談室は、
と考える企業さまにご活用いただいています。それほど、社員自身がキャリアパスを考えることが重要視されているのだと思います。
ですが一方で、キャリアコンサルティング、キャリアコンサルタントに関して、その実態を十分に理解できていないという声や、人事部として活用するイメージがわかない、という声も多く聞きます。ご質問を受けるたびに、自分なりに回答してきましたが、ご質問を受ける機会が増えてきたため、今回はキャリアコンサルタントとキャリアコンサルティング技能検定の国家試験の実施および国家資格の登録までを担う、キャリアコンサルティング協議会さん(以下、CC協議会)にお話を聞いてみました!今回は前編です。
キャリアコンサルティングは業務を越えて、相談者さんの生き方全般に及ぶ
(藤田)こんにちは!本日はよろしくお願いいたします。まず、素朴な疑問なのですが、1対1の面談とキャリアコンサルティングは何が違うのですか?
(CC協議会)キャリアコンサルタントは「話を聴くプロ」なんです。
近年、多くの企業で実施されている 1on1 ミ―ティング(以下 1on1)は「上司と部下による 1対1の定期的な面談機会」のことですが、ある調査では企業の約 7 割で導入しているという調査結果もあります(*1)。
1対1の面談という点ではキャリアコンサルティングと同じスタイルですが、1on1 は基本的にはその職場における業務に関する話が中心なのに対し、キャリアコンサルティングの場合は、話題が相談者さんの生き方全般に及ぶ、という点が大きな違いといえます。
キャリアコンサルティングでは仕事のことはもちろん、家庭やプライベートのことも自由にお話ししてもらってかまいません。「特に相談したいことは無いんだけど、なんとなく自分の生き方について誰かと話したいなあ」なんて時に利用してもらってもいいんです。話を伺う国家資格キャリアコンサルタントには守秘義務がありますので、お話しいただいた内容が他に漏れることはありませんし、お話しされる方が話しやすいよう、そして多くの気づきがあるよう、プロとして話を聴くトレーニングを積んでいるということも違いといえるでしょう。
キャリアコンサルティングを受けたからといって、必ずしも転職するわけではない
(藤田)キャリアコンサルティングを受けると転職しちゃったりしないのですか?
(CC協議会)キャリアコンサルタントはいきなり転職を勧めたりはしませんから、想像されているようには転職しないです。この疑問はキャリアコンサルティングを実施する際によく聞かれる最大の誤解かもしれません。
「最近、この仕事を続けてていいのかなって思うんですよね」という相談に対して、「じゃあ、仕事を変えてみますか?」と答えるようなキャリアコンサルティングはありません。「なんかいい仕事はないですかね?」という相談に対して「こんな仕事がありますよ」と答えるようなキャリアコンサルティングもありません。
どちらの例にしても、まずは「どうしてそのようにお感じなのか(お考えなのか)、お話いただいてもいいですか」と、相談される方の状況や気持ちを丁寧にお聴きしながら、キャリアコンサルタントは相談される方のお話を整理していくはずです。
それは今の仕事の進め方を改めて考えてみることかもしれませんし、仕事における人間関係やコミュニケーションの取り方を振り返ることかもしれません。いずれにせよ相談される方が一番能力を発揮でき、輝ける生き方を話していくなかで一緒に考えていくことになると思います。
その選択肢の中で社外への転身という可能性が出てくることはあり得ますが、最後はもちろん相談された方が判断するもので、キャリアコンサルティングが転職を助長するわけではないのです。
*参考:「キャリア自律」促進は、従業員の離職につながるのか?/パーソル総合研究所
*参考:キャリア相談や自己啓発を行うと能力活用目的で転職しやすくなることなどを明らかに(ビジネス・レーバー・トレンド 2023 年 1・2 月号/労働政策研究・研修機構(JILPT)
個人の考えと組織の考えの折り合いがつくポイントをそれぞれが上手に見つけていく
(藤田)あえてこんな質問をします。社内のキャリアコンサルティングで、企業の考えるキャリアパスを描かせたい場合などは、どのように対応するのでしょうか?
(CC協議会)最近、社会や企業内で「キャリア自律を目指す」という言葉をよく耳にしませんか。「キャリア自律」とは、働く個人それぞれが自身のキャリアを自分事として考え、自らキャリア形成に取り組んでいる状態を指します。変化する環境に合わせて、自ら目的意識を持って積極的に日々の業務や自己啓発に取り組むことで、企業や社会全体の生産性の向上につながることが期待されています。
これは、終身雇用時代のように企業に就職したらそのキャリアパスに乗って他人(企業)任せのキャリアを積む流れから抜け出すことですので、キャリア自律を社員の方に望むであれば、そもそも「企業の考えるキャリアパスを描かせたい」という考え方とは合わないものとなります。
企業が考える通りのキャリアパスを社員に描かせることは難しい時代です。とはいえ、いくら自らキャリアを築くといっても、組織の方向性や期待されることと全く相容れないキャリア形成の仕方では、周囲と仕事を円滑に進めることはできないでしょう。このような場合もキャリアコンサルティングを利用し、個人の考えと組織の考えの折り合いがつくポイントをそれぞれが上手に見つけていくことが現実的だと思われます。
*参考:令和4年版 労働経済の分析/厚生労働省
キャリアコンサルティングについて学ぶことで企業の課題解決に大きく貢献できる
(藤田)社内ではどのような社員の方にキャリアコンサルタントの資格を取得してもらえばいいのでしょうか?
(CC協議会)キャリアコンサルタントは、定義でいうと「働く方の職業の選択、職業生活設計または職業能力の開発及び向上に関する相談に応じ、助言及び指導を行う」人のことですが、もっとわかりやすく説明しますと「働く方のキャリアに関する相談に応じるとともに今後のキャリアの設計や職業能力の開発へのサポートを行う」、そんな役割を担っているといえます。ですので、企業で働く社員で以下のような役割を持つ方々は特に、キャリアコンサルタントの資格を持つことが適していると思います。
人事部門の社員:人材育成や採用、社員のキャリア支援に直接関わるため、キャリアコンサルタントの知識とスキルは役立ちます。また社員教育や研修の実施を担当される社員にとっては、研修プログラムの幅が広がりますし、質も向上させることができます。
管理職:部下のキャリア形成やモチベーション向上に貢献できるため、チーム全体のパフォーマンス向上に繋がります。
現場のリーダーやベテラン社員:現場の実情をよく理解しているため、チームメンバーへの実践的なキャリア支援が期待できます。
営業職:キャリアコンサルタント資格取得にあたっては、「傾聴」のスキルを学びますので、コンサルティング営業職などにも有効です。
最近は、企業内でのセルフ・キャリアドック(*2)が話題になっていますが、この仕組みの導入のために、多くの企業ではキャリアコンサルタントの知見やカウンセリングスキルが求められています。
人事などの管理部門や管理職の方に資格を取得いただくことの有用性は先に述べたとおりですが、どのような立場の社員であってもキャリアコンサルティングについて学ぶことは、自らのキャリア意識や仕事に対するモチベーションの向上に繋がります。ついては、企業の課題解決に大きく貢献できることに繋がり、企業全体の成長・活性化にも発展していくことは間違いないでしょう。
*参考:「企業・学校等においてキャリア形成支援に取り組みたい方へ」/厚生労働省
組織として資格取得後のキャリアコンサルタントを支援することが大切
(藤田)社内でキャリアコンサルタントの資格を取った人には、会社はどのような支援が必要なのでしょうか?
(CC協議会)まず大事なこととして、組織全体が社員のキャリア形成やそのための施策に対して理解を深めることが必要だといえます。会社全体におけるキャリアコンサルティングへの理解は、社内キャリアコンサルタント自身のモチベーションになるとともに、安定し効果的な相談の実施へとつながります。その結果、社員のキャリア形成を十分にサポートする環境が整うことで、社員の自立・自律的なキャリア形成を促し、ついては会社全体の成長にもつながるでしょう。
もちろん、そこに携わるキャリアコンサルタント本人の自己研鑽も重要なことですが、組織として資格取得後のキャリアコンサルタントへの具体的な支援としては、以下のようなものが考えられます。
●継続的な学習機会の確保
どのような資格も同じと思いますが、資格取得後も最新の知識やスキルを習得するための研修の参加などは必要です。キャリアコンサルタントは対人支援者なので、特に継続的な研鑽は責務であると考えます。質の担保のためにも、助成金制度等(*3)を活用し計画的に学習の機会を設けるなどの支援は有効だと思います。
●キャリアコンサルティングを実施できる環境を整える
先に述べたとおり、研修などのインプットの学習も必要ですが、学んだことを実際に組織で活かしてこそですので、従業員が相談しやすい環境を会社全体で整えましょう。社内でキャリアへの理解を深めるための情報や機会の提供、予約しやすいサイトの構築、業務時間内でも相談することができる風土づくりなども重要です。
●連携できる体制を整える
キャリアコンサルタントは職業生活に関する悩みや問題の解決をサポートする専門家ですが、その相談はその範囲以外のさまざまな問題が絡み合うものです。例えば、社員の健康に関することであれば、産業医(*4)とキャリアコンサルタントが定期的に情報交換を行い、連携体制を強化することで、職場環境の改善の検討を行うなど、より効果的な支援が提供できます。その他、さまざまな分野の専門家と必要に応じて連携できる体制を整えることは、迅速な対応を可能とし、問題を悪化させないことにつながります。
強制せず、自発的なキャリア形成を支援する複線型の仕組みを用意する
(藤田)キャリアコンサルティングを受けることに前向きではない人がいる場合はどうすればいいのでしょうか?
(CC協議会)従業員向けにキャリアコンサルティング施策を実施する場合、一般的には以下の4つのやり方があるようです。
⑴ キャリア相談室を常時開設し、希望者が相談を受けられるようにする
⑵ 特定のキャリア研修(年代別研修や職務別研修等)の後に実施する
⑶ 入社や異動、職場復帰など業務上の大きな動きがあった方を対象に実施する
⑷ 健康診断のように全従業員を対象に定期的に実施する
上記の場合、⑵や⑶に関しては、その該当者全員に対して実施する場合と希望者に対して実施する場合があります。⑷は全従業員を対象に実施することになりますが、これも従業員の方に受けていただく意味をより理解いただくために、事前のキャリアセミナーやガイダンスを組み合わせて実施することが効果的です。
キャリアコンサルティングを受けたくない人に強制的に実施しても、自発的なキャリア形成への効果は薄いでしょうから、実施する企業としては上記の⑴~⑷のようなやり方を複線的に用意し、自分のキャリアのことを自発的に考えたくなった時に利用できる施策が、従業員の方の身近にある体制づくりが大切ではないでしょうか。
*参考:労働政策研究報告書 No.171「企業内キャリア・コンサルティングとその日本的特質」/労働政策研究・研修機構(JILPT)
*参考:労働政策研究報告書No.171「第3章 企業内キャリア・コンサルティングの体制と運営」
https://www.jil.go.jp/institute/reports/2015/documents/0171_03.pdf
各社内窓口の相互理解と連携がポイント
(藤田)社内にいろいろな相談窓口がある場合は、どう連携すればいいのでしょうか?
(CC協議会)近年の法改正により、「ハラスメント相談窓口」、「心とからだの健康問題についての相談窓口」「雇用管理の改善に関する事項に係る相談窓口」、「育児休業に関する相談窓口」など、設置が義務化されているものや選択対応可のものを含め、「相談窓口の設置」を求められるケースが増加しています。
そのため従来の「キャリア相談窓口」、「健康相談窓口」などに加えて社内に複数の相談窓口が存在する場合があります。それぞれが異なる問題に対応していますが、相談者によっては、キャリアの問題と心の健康問題、キャリアの問題とハラスメントの問題等、複数の問題を抱えている場合があり、それらに適切に対応するには、各相談窓口の連携が必要です。
相談窓口が連携するには、まず担当者がそれぞれの相談窓口の機能や仕組みなどの対応手順について理解し、担当者による定期会議などの機会を設けて情報交換を行い、必要な場面で連携可能な体制を整備します。それには、守秘義務の考え方についても、担当者間で事前に確認しておく必要があります。
また、それぞれの相談窓口(場合によっては外部のリファー先)への紹介の手続きや手順も決定しておくと良いでしょう。各相談窓口が連携・協力することは、複数の問題を抱えている相談者への適切な対応と会社のリスク管理につながります。
〜後編へ続く〜
キャリアコンサルティング協議会について
特定非営利活動法人キャリアコンサルティング協議会はキャリアコンサルタントを養成する団体、能力評価試験を行う団体及びキャリアコンサルティングの実践・研究等に関わる団体が相互に協力して、キャリアコンサルタントの資質確保活動とキャリアコンサルティングの普及啓発活動を行うことを目的として設立した団体です。
こうした活動を通じて、キャリアコンサルタントが確立された専門家として成長し、個人の主体的なキャリア形成の促進及び職業生活の充実並びに組織(企業、団体等)の運営に貢献することにより、キャリアコンサルティングが社会インフラとなることを目指すものです。
今回のインタビューは、そんなCC協議会のなかにあるブランディングプロジェクトチームが担当いたしました。このチームでは、キャリアコンサルティング・キャリアコンサルタントがよりみなさんの身近なものになるよう、調査活動やコラム発信を行っています。
*1,120人に聞きました「相談するということ実態調査」
*キャリアのことを「ゆるやか」に考えるコラム「ゆるキャリ」
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